制作 :BA-KU(公式サイト)
ランク:S
ランク:S
異能が溢れギャングが支配する危険な街で生きた者達の記録。
群像劇をここまで綺麗に描けるのは凄い。
※後半はネタバレ有
群像劇をここまで綺麗に描けるのは凄い。
※後半はネタバレ有
キャラクターボイスはありません。
攻略順
一つの話を読むと他の話が読めるようになります。適切にシナリオロックがかかっているので、好きな順番で読んで問題ないです。
感想(概要)
〇高い完成度のマルチサイト群像劇
群像劇は多数の主観を描く必要があるため難易度が高いはずなのですが、どのキャラクターのシナリオも個性的で、全体像を知ることでより面白くなるシナリオです。読めば読むほど続きが気になる魔力が宿っていました。
群像劇は多数の主観を描く必要があるため難易度が高いはずなのですが、どのキャラクターのシナリオも個性的で、全体像を知ることでより面白くなるシナリオです。読めば読むほど続きが気になる魔力が宿っていました。
〇「Y地区」という刺激的な舞台
異能力者を含め様々な人種を受け入れ、ギャングが支配する本作の舞台「Y地区」は地獄のサーカスみたいな舞台です。人の命が凄まじく軽い。だからこそ多様な死生観があり、読むのに飽きない舞台でした。
異能力者を含め様々な人種を受け入れ、ギャングが支配する本作の舞台「Y地区」は地獄のサーカスみたいな舞台です。人の命が凄まじく軽い。だからこそ多様な死生観があり、読むのに飽きない舞台でした。
〇多様な価値観を持つキャラクター達
おおよそ”普通”とはかけ離れ過ぎた「Y地区」で生きるキャラクター達は、十人十色の価値観を持っています。そんな彼らが語る”生まれてきた意味”、”生きる意味”には読ませるだけの力が宿っていました。
おおよそ”普通”とはかけ離れ過ぎた「Y地区」で生きるキャラクター達は、十人十色の価値観を持っています。そんな彼らが語る”生まれてきた意味”、”生きる意味”には読ませるだけの力が宿っていました。
まとめ
ライターである瀬戸口氏の筆力は化け物ですね。人種と思想の坩堝のような舞台で、独自性あふれる価値観とそれぞれのキャラクターの人生を群像劇で描く。これができる人はそういないでしょう。とても満足いく作品でした。
“普通”ではない舞台ですが、そこで生きていたキャラクター達は確かに”人間”でした。多様な人の感情を魅せてくれた本作は、間違いなく”人間”の物語です。瀬戸口氏が「人を描くのが上手い」と評されるのが良く分かります。
風変わりな人間の話が読みたいのなら、お勧めできる一品です。
※以下はネタバレ有感想です。
感想(キャラクター)
■見土道夫
本作のキャラクター達の社会的な優先順位が、一般的な社会通念とずれていることを一番分かりやすく表現しているキャラクターだなと思いました。端的に言うと”殺人”の優先順位が「Y地区」の人間は低いです。
一般的な社会通念では”殺人”は極地の手段です。ですが彼は恩人(老人たち)のために、八龍解放軍の隊長を引き受けました。饅頭を作って平和を語っていた人間の思考とは思えませんが、「タイプB」の立場の弱さとこの街の流儀を考えれば普通ですらあります。
彼はハイブリットですが立ち位置は「タイプB」の代表です。どんな美辞麗句で飾ろうと、精神疾患者など現実と同じく社会からしたら腫物です。「タイプB」のために行動していた彼からすれば、引き受けないという”選択肢”はありえないのでしょう。
ただシウとの未来を夢想している辺り、自分が安らげる人と一緒になることが、彼の本当の望みだったように思えます。まぁだとしても善良者を殺した人間が得られるものではありません。そういう意味では知らずに死ねたのは幸福ですらあります。
自分の本懐を認識してた亮とそうでなかった道夫。彼らの違いは”選択肢の有無”それだけだと思います。自ら指揮した亮にはそれがあって老人に従った道夫にはそれがなかった。ただそれだけですが決定的な違いです。
■熨田さくら

本作における「タイプB」の代表を道夫とした場合、「タイプA」の代表は彼女になると思います。社会的に重要なポジションに着く「タイプA」も増えているそうですが、それは極少数でしょう。人はそれほどまでに”他人と違う”ことを恐れます。
客観的に見れば彼女の能力は破格もいいところです。汎用性の高い飛行能力の使い道はいくらでもあります。体質の謎体液も科学でリカバリー可能な範囲です。何より見た目はノーマルなので、表立って動くことも出来ます。
ですがそれは所詮客観の話。常に変な体液が出るなんて引きこもるに十分過ぎる理由です。”化け物”と罵られたくはないですもん。でもそれは別として自分の”スペシャル”を認めてほしい。人の面倒くさい部分が本当によく描けています。
そんな彼女が謝兄妹と出会い、”スペシャル”を認めてくれた彼らのためになろうとする気持ちに共感もできますし、その後の行動力の高さも好感が持てます。本作で好きなキャラクターはいっぱいいますが、その中でも大分上位です。
最後のライフルを手に空に浮くCG凄くカッコいい…
■太刀川良馬
ローズ・クラブ襲撃時にミアオとシンクロした結果、本来人が最期にしか得ることのできない、死へ向かう者の感情を得てしまいました。しかしこれは人に許された領域を超えていると思っています。それほどまでに死は未知です。
ミアオのこの世という地獄から解放される”幸福”と、太刀川のミアオの死という”絶望”が融合してしまったせいで、ミアオの死を悲しむという感情を獲得できず、存在しない答えを探すという、果て無き旅路を行く羽目になりました。
とはいえ彼の最期はこの街ではマシな部類でしょう。今際の際ですがその答えを知ることが出来たのですから。にもかかわらず生への執着があったのは、まだ治療が必要な患者がいるのに、逝かなければならないことが心残りなのだと思います。
本当に太刀川良馬という男は”善人”です。
■路地邦明

いかなる鍵も開錠できるというチートでしかない能力を持ったせいなのか、随分と波乱万丈な人生を歩んだ男です。知りたいことに忠実という点では灰上姉妹と同じですが、社会的に行動が”善”であるというところが違っています。
復讐に対する考えは彼と同意見です。復讐などというものは一から十まで自分の我儘で、故人が喜ばないなど初めから筋違い。他人を言い訳に使うなと言いたいです。自分の考えが最後までブレなかったのが彼の強さだと思います。
本作の内容を出版するそうですが、それで世界的に影響は及ぼさないと思います。特殊タイプBの存在は世界を揺るがしかねませんが、世間の大多数は信じ無いと思います。人は世界が狂っていることを認めたがらないものです。
ですがそれでもこの物語を知りたい誰かはいるでしょう。思い返したい誰かはいるでしょう。そんな人達の助けにはなります。記録とはそんな誰かのためにあるものだと私は思います。
■灰上姉妹(璃映子、江梨子)
彼女らもまた心の強い人間です。誰に何を言われようと自分たちの物差しで判断しています。そんな彼女達に会えたからこそ、サーシェンカはグレートホールへ帰ることができたのでしょう。彼のような存在にとって、理解者は何よりの救いです。
同時にサーシェンカを見守ることで彼女達も成長します。亮へと抱いていた恋心を受け入れることが出来ました。世界を知りたいと言っていましたが、本当に知りたかったのは、案外亮への感情だったのかもしれませんね。
最初は好きじゃなかった姉妹ですが、最後には好きになっていました。割り切っているようで好きな人達には情に熱い。そういうところが人間らしいなと思います。
話はそれますが特殊タイプB化した江梨子はなんか融合っぽくていいですよね。
■汐松子
どこまでが「人間」の定義に当てはまるか?という問いに対して、限界までチャレンジしたキャラクターだと思います。「汐松子」⇒「しおまつこ」⇒「死を待つ子」なんて物騒な想起ができる名前なのに、死ねない存在というのは皮肉が利きすぎています。
精神面であれば文句なく「人間」であると思います。出自こそ肉片からのスタートとぶっとんでますが、亮と父親に教育され、他者と交流し様々な経験をし、やりたいことを見つけられている彼女を「人間」と称する他ないでしょう。
ただ肉体面に関しては、再生可能な実質不老不死の「特殊タイプB」が「人間」の範囲であるか悩みました。ですが「特殊タイプB」であっても死生観は持っています。ミアオのような死への安堵、ヘスの滅びへの怯えは、紛うことなき死生観です。そしてそれを持つものは「人間」であると私は考えています。
まぁ色々ゴチャゴチャ言いましたが、最後に亮と再会できて嬉しそうにしている彼らが全てです。その感情は「人間の愛」がもたらしたものに他なりません。
■謝亮(菅原亮)

本物語の主演。彼の恐ろしいところは異常なまでの俯瞰視野です。幼少期より個ではなく全体の視点で物事を考えられる傑物です。それでも肉親の死に悲しみ、誰よりも家族を想う心を持った優しき人です。作中で一番好きなキャラクターです。
真に恐ろしいのは特殊能力や常人を凌駕する膂力ではなく、卓越した視野と合理的な思考が可能な頭脳である。それを体現している「ノーマル」なキャラクターです。実際亮の行動は完璧と言っていいレベルのものです。
ですが彼は自分で言っているように争いは嫌いなんですよね。願っているのも松子とシウの安寧ぐらいです。それだけのために人種の垣根を取り払い、完全に街を統合する。そのために自分の命に折り合いもつける。こんなのカッコいいに決まってるじゃないですか。
彼が掌握した「Y地区」はYSのディストピアといっても過言では無かったと思います。人種統合レベルのことをするとそうならざるを得ません。そして彼が死ねば混迷化することも分かっていたとは思いますが、それでも人種融和が進んだだけプラスと考えていたように思います。
ただ本来死ぬことで完成するはずだったのに、結果的に死ねなかったのはちょっとした笑い話でもあります。まぁ彼も完全ではなくミスをする人間で、人生というのは想像通りにいかない…そういう意味かもしれませんね。
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